「ネットワークシステムについて語るときに我々の語ること」発売のお知らせ

2022年にLarry Peterson、Bruce Davieらによる著書「Software-Defined Networks: A Systems Approach」の翻訳をやらせていただきましたが、今回は同じSystems Approachシリーズの最新刊(当時)「What We Talk About When We Talk About Systems: Essays on the Systems Approach」の翻訳(邦題:「ネットワークシステムについて語るときに我々の語ること」)をやらせていただきました。

What We Talk About When We Talk About Systems: Essays on the Systems Approach

今までのSystems Approachシリーズは特定の技術について解説している書籍なのですが、本書はそれらとは少々異なり「エッセイ集」となっています。LarryとBruceが過去何年かに渡り書いてきたニュースレターから、いくつかのテーマに沿ったものをピックアップして書籍としてまとめたものです。そのため、本書では幅広いトピック(アーキテクチャ、オープンソース、SDN、集権化vs非集権化、輻輳制御とRPC、セキュリティ、5G、SmartNIC、ネットワーク管理、AIと量子コンピューティング、など)がカバーされています。

この本で書かれている内容は彼らの豊富な知識と経験にもとづくものなのでとても説得力があるのですが、本書のもう一つの魅力は本文中や章末で参照されている書籍、論文、記事、映画、YouTubeビデオ、などです。私も今回の翻訳をするにあたり、できる限り正確なコンテキストをお届けしようと思い、これらの参照先を辿りながら翻訳を行いました。そうして気が付いたのが「これが本書の楽しみ方なんだな!」ということです。皆さんも、もし本書を読む機会があったら、ぜひ本文だけにとどまらず、さまざまなリンクを辿る旅に出かけることをお勧めします。きっと何倍も楽しめるでしょう。私も翻訳途中でしばしば脇道に逸れたおかげで想定していたより少々翻訳に時間がかかってしまったのですが、その価値は十分にあったと思います。

この本を訳して思ったことが二つあります。一つ目は、日本の教育機関(高校、大学、等)でネットワークがどのように教えられているんだろうか、という点です。OSIの7階層や各種プロトコルの詳細を盲目的な教義としてして教え込まれたりしていないだろうか、本書を読んで心配になりました。ネットワーク(あるいは広くシステム全般)の面白さって、そういうところにあるわけではないと思います。アーキテクチャの根本にある考え方、失敗から得られた教訓、技術の変遷とその背景、なぜインターネットがこれだけの成功を納めたのか、そいうところに面白みがあるのではないかと思うのです。本書はネットワークの網羅的教科書ではないので、これ一冊読めばネットワークのことが全部分かる、といった代物ではありません。ただ、ネットワークやコンピューティングシステムの面白さを気づかせてくれるとても良い「副読本」になるのではないかと思います。

この本の翻訳にあたってもう一つ思ったことは、我々が喫しているかもしれない機会損失についてです。前述のとおり本書にはたくさんの参考資料へのリンクが付されています。それらは残念ながらほとんどが英語によるものです(原著者が英語圏の人なので当然なのですが・・)が、それらは今見ても本当に面白くてエキサイティングなものばかりです。例えば本書中でたびたび言及されている2011年のOpen Networking SummitでのScott Shenkerによる記念碑的講演 “The Future of Networking, and the Past of Protocols” は今見ても多くの気づきを与えてくれます。私も今回の翻訳にあたりこのビデオを見ましたが、(15年も前のものなのに)ワクワク感が止まりませんでした。これをリアルタイムで見ていたら私の人生を変えるきっかけになっていたかもしれません。

しかし、海外で行われたこの講演をリアルタイムで見れた日本人はほとんどいなかったのではないかと思います。我々にとってロケーションと言語の壁は高いのです。しかし、良い時代になったもので、これらのカンファレンスでの講演の録画がYouTubeなどでいつでも誰でも見れるようになってきています。先のScottの講演の録画はここで見ることができます。それでもなお、こうした素晴らしい講演が行われたこと、そしてそれがYouTubeで公開されていることを知らなければ(あるいは知ろうとするアンテナが立っていなければ)、結局我々はそれらに気づくことができないわけです。これは大きな機会損失だと思います。そのような機会損失を少しでも減らせるように、私も微力ながらお手伝いをしていきたい、そんな思いがこの本を読んでいて沸々と湧いてきたのでした。

最後に、本書をこの世に出せたのはラムダノートさんのおかげである点もお伝えしておきたいです。手前味噌ですが、本書の日本語はすっきりと読みやすくなっているはずです。これはひとえにラムダノートの鹿野さんの多大な貢献によるものです。私にはあんなすっきりとした日本語は書けないです(汗)。また、編集作業はすべてGitHub上で行い、Pull RequestのSuggestion機能を使って議論を交わしながら作業を進めましたが、コンピュータとネットワークに関する深い造詣をお持ちの鹿野さんとの議論も私にとっては大きな学び&楽しみでした。

本書(紙、電子とも)はすでにラムダノートさんのページから購入することができます(紙媒体で買うと電子版ももれなくついてくるのでお得です!)。Amazonや街の書店などでも追って購入できるようになるはずです。ラムダノートさんのブログ記事も合わせてお読みいただければ幸いです。

本書が皆さんにとってネットワークやシステムの面白さの再発見に繋がってくれれば、と願っています。