NeXT Computerとの出会い

私が東京電力にいた時に、所属していた課に研究用としてたまたまあったのがNeXT Computerでした。いわゆる初代のNeXT Cubeです。

NeXT Cube NeXTcube. (2022, December 10). In Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/NeXTcube

それまで私は、耳学問としてはUNIXに関する知識はありましたが、直にUNIXに触ったことがほとんどありませんでした。実質最初に触ったUNIXマシンがNeXTだったわけです。これは本当に衝撃的な出会いでした。カーネルはMach、Window Systemには当時UNIXで主流だったX-WindowではなくDisplay PostScriptを全面的に採用、ハードウェアも当時としては珍しかったDSPやMO(光磁気ディスク)などが搭載されており、美しくデザインされた筐体でした。しかし、私にとって最も驚きだったのはなんといってもInterface Builderです。Interface Builderは現在MacOSのXcodeに引き継がれており、Interface Builderに触ったことがある方も多いと思うので、何がそんなに凄いんだ?、と思われるかもしれません。ただ、当時の私にとっては、Objective-Cのようなコンパイル型言語で、なぜコンパイルやリンクをせずにU/Iのテストができるのか直感的に理解ができず、本当に魔法を見せられているようだったのです。Steve JobsがNeXT上でInterface Builderのデモをやっている動画が残っていたので、ぜひ見てみて下さい!

Steve JobsによるInterface Builderのデモ

NeXT Stationを手に入れる

すっかりNeXTに魅せられた私は、Machが生まれたカーネギーメロン大学(CMU)に大きな憧れを持つようになりました。そして、海外留学をしようと思った際にCMUが第一希望の大学となったのはNeXTの影響がとても大きかったと言えます。そして、運よく第一志望の学校に行く機会が与えられ、1992年から1995年のあいだピッツバーグで暮らすことになりました。

NeXT社とCMUの関係はとても親密だったので、学内にはたくさんのNeXTが設置されていました(もちろん、DEC、Sun、HP、Omronなど他のワークステーションもたくさんありました。が、Computer Sceience学部内のマシンのOSはほぼほぼMachでした)。というわけで、学内ではNeXTに触る機会はいくらでもあったのですが、「自分でNeXTを所有したい」という気持ちが次第に強まっていったのです。アメリカの大学の多くは大きなディスカウントでコンピュータを学生に販売しています。幸いCMUではIBM-PC互換機やMacだけでなくNeXTも学割販売をしていたので、学生であるうちにこの特権を使わない手はない、と思い、帰国直前に憧れのNeXTを学割で購入したのでした。ただ、購入したのはCubeではなく、NeXT Stationというピザボックスタイプのものです。NeXT Station Colorというカラー表示が可能なモデルもあったのですが、こちらは少々お値段が張るので流石に手が出ず、モノクロモデルのNeXT Stationを購入しました。金額ははっきり覚えていないのですが、$2,000〜$3,000くらいだったのではないかと思います。当時のPCの価格よりは少し高いですが、その時のNeXTの市場価格(特に日本における市場価格)を考えるとかなりお得な買い物だったと思います。

休眠、そして復活!

そんな形で手に入れた憧れのマシンNeXT Stationですが、日本に帰ってからしばらくは自宅で使って遊んでいました。しかし、子供が増えたりいろいろイタズラをし始める年頃となってきたりで、NeXTを手元に置いておくのが難しくなってきました。そこで、一時的にNeXTを実家に退避することにしました。というわけで、実家の納戸にひっそりとしまわれ、そのままあっというまに時が過ぎて、20年ほどそのままの状態となってしまったのでした。

しかし、両親ともに亡くなり昨年実家を取り壊すことなったため、いったんNeXTをまた自宅に持って帰ってきました。20年ぶりに火を入れてみたところ、驚いたことにちゃんとブートしますし、アプリケーションも動いてくれます! Interface Builderはもちろん、画期的だった(と私は思っている)スプレッドシートのLotus Improv、Illustratorのような描画ソフトであるTopDraw、作りかけのアプリケーションデモなどもちゃんと動いてびっくりです。NeXTに標準でついてくるメールソフトは、当時としてはまだ珍しかったMIMEベースのマルチメディア・メールのNeXT Mailですが、メールボックスにはSteve Jobsのサイン付きメールが1通入っていました。もちろん私個人に送られたわけではなく、最初からNeXT Mailに入っているメールなのですが、それでもなんかホロリときてしまいました。

NeXT Mail

NeXT Mailに入っていたSteve Jobsからのサイン入りのメール

NeXT Station第二の人生を模索

このまま自宅で使い続けたいのは山々なのですが、そもそも手狭な住宅事情の中、すでに多くのLab機などに部屋を占められている状況なので、さらにNeXTのためのスペースを確保するのは少々厳しい、というのが正直なところでした。

そこで、Twitterで以下のような投稿をしてみました。

Twitterで愛機NeXT活用法のアイディアを募集

そうしたら、結構な反響がありまして、「懐かしい!」、「昔使ってた〜」、「博物館へ寄贈してはどうか」、「個人的に使いたい」、など、いろいろなコメント、アイディア、オファーをいただくことができました。どこからどう伝わったのか、海外の方からも「ぜひ引き取りたい!」という熱いメッセージをいただいたりもしました。

愛機NeXT、博物館へ行く

いろいろ検討させていただいたのですが、できれば多くの方にとって役に立つ形で活用されるのがNeXT君にとっても一番幸せなのではないかと思い、結局、夢のマイコン博物館さんに寄贈をさせていただくことにしました。夢のマイコン博物館さんでは、本体が動く限りは動体展示をしてくださる、ということなので、この方法が最善ではないかという結論となりました。実際に手に触れてみることができる形で展示いただけるようなので、興味がある方はぜひ青梅の夢のマイコン博物館さんまで足を運んでいただければと思います。ただ、2023年4月から移転拡張作業が予定されており、私のNeXT君が展示をされるのは移転後の7月頃になるとのことです。私も展示されたら見に行ってみようと思っています。ともかくいい行き先が見つかってよかったよかった!

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